PHILOSOPHY

数万点にも及ぶ部品で構成された、車のコンディションのピーク、特にパフォーマンス面は、下ろしたての新車時や、匠の技術によって再生されたフルレストア直後の状態ではありません。少なくても私は経験上、そう考えています。

なぜなら、車は数多くの部品の集合体で、個々の部品がそれ一つで機能を担うことは無いと言っても過言ではなく、走行によって生じる各部の連携の良し悪しこそが、車のコンデションを左右する、大きな要素と考えるからです。

走行による摺動、摩擦などにより、各部のクリアランスは徐々に適正化され、 重々しかった部品の動きは、連携を取りながらスムーズになっていきます。また同じくしてオーナーと車のスタンスも徐々に構築されていき、双方が唯一無二の存在へと変化をしていきます。そういったプロセスとともに、コンデションはピークへと向かいます。

そしてそのピークは、突如として感知させられます。それはサーキットなど、パフォーマンスを解放できる場所ではなくても、例えば高速のインターチェンジの回り込むようなコーナーだったり、いつものS字での切り返しであったり、本線への加速しながらの合流であったり、いつもと同じシチュエーションにおいて十分に感知でき、車がまさに自分の手足となる、素晴らしくこの上ない瞬間で、まさしくコンデションのピークであることを実感することができるのです。

しかしそのピークはそれまでの時間と比較した場合ごく僅かな間で、ピークを境に緩やかながらも下降の一途を辿ります。そこでオーナーである私たちは、適切なメンテナンス、あるいは時にチューニングを施しながら、次のピークに向かって途方もない時間をかけて、車を新ためてブラッシュアップしていくのです。そしてその過程こそが、クルマと付き合う醍醐味であるし、これを経過してはじめて、そのピークを感知することができるのです。

幸いにして私たちは、このようなスタンスにしっかりと応える要素を持った、国産車としては数少ない車種の一つと向き合っています。この類いまれな車のオーナーとして存在した証として、オーナーのイニシャル、車両型式、そして唯一無二の存在であるその車体番号が刻印された、完全ワンオフシフトノブを企画しました。

ガソリン代の高騰、買い換えこそがエコという風潮、そして純正パーツの欠品など、いまの時代にこれらの車を維持所有していくことは並大抵のことではありません。ユーティリティに優れ、また経済的に何となくメリットを感じ、流行りのデザインや機能を纏った、最新の車を乗り継いでいく事も一つのスタイルだとは思います。

しかし、このような類いまれな車に巡り会い、乗り続ける事によってのみ成し得る、その存在の意義、魅力を伝えていくことは、それはオーナーである私たちが担った役目である思います。これを全うしていく過程において、幾度か迎えることのできるコンデションのピークをこのシフトノブを介して感知していただければ、そんなにも嬉しいことはありません。

また、諸事情により車に乗り続けられなかったとしても、このシフトノブは、オーナーとして存在とした明確な証となるはずです。

尚、シフトノブの製品化にあたり、多くの方々のご協力をいただきました。

20年の長きにわたり、私のGT-Rにまさに適切なメインテナンスを提供し続けてくれている、FTEC CORPORATIONの野口さん。彼の技術と、車へのフィロソフィーがなければ、ここまで乗り続ける事は出来なかったでしょう。今回は図面データ作成に加え、ノブのデザインについても参画していただきました。

また、私の本業であるデザインにおいて、15年以上にわたり、厳しい評価者である広告代理店の平井さん。今回の企画、及びセールスプロモーションにおいて、初期段階から相談させていただき、ユーザーの目線に立った、様々なアドバイスをいただきました。

その他、多くの方々の技術、アイディア、そしてご意見がなければ、このシフトノブを製品化することは不可能でした。末筆ではありますが、この場をお借りしてお礼申し上げます。